受付時間 / 午前 9:00-12:00 午後 14:30-17:30
 休診日 / 土曜午後・日曜・祝日 (急患は随時受付)
MENU

お知らせ

「海外文献からみるACP」

 10月の「医療と介護の未来塾」も、なるコミにて会場もしくは、Zoom形式のハイブリッド方式で開催いたしました。今月のテーマは、「海外文献からみるACP」で、講師は川西 幸貴先生(宇都宮病院医局長 消化器内科専門医)(以下、川西先生)でした。ACPに対して関心が高く、今月参加者は、Zoom参加者:26名(最大)・なるコミ聴講:66名の合計92名でした。ご参加いただきました皆さま、有難うございました。  

 川西先生より、アドバンス・ケア・プラニング(以下、ACP)は人生の最終段階について前もって決めておきましょうということであり、アドバンス・ケア・プラニングの用語での大切なところは、プランではなくプラニングであり、前もって(アドバンス)これからもどんどん考えを何度も計画し続けられる(プランニング)ことでありますと話されました。ACPの定義(NCCNガイドラインなど)として、予後が1年以内に移行する時期には少なくとも介入し、今の自分の人生観をもとに人生の最終段階の医療・ケアについて話し合いましょう。また、人生の価値を考え、代理人を決め、ホスピスや緩和ケアについても話しておきましょうと紹介していただきました。最近の緩和ケアの概念も、最初にがんと診断された時点で痛みや苦痛となる症状を緩和する方向に変化してきており、緩和ケアの病院やクリニックと関わりをもつのも方法の一つとして知っておいてほしいと話されました。健康成人と病人のACPに分類され、健康成人の場合、人生の会議は健康でもできるため、早くからACPに知り取り組んでほしい。病人のACPは、早い段階から何度も家族や医療者側ともACPに取り組んでいるため、行きたい場所や最期をどこで迎えたいか等を自分で選べ、終末期での自己コントロール感の上昇、医療者側としても安心できます。健康寿命と平均寿命の約10年の差や、日本の医師・看護師数(2020年)も、欧米に比べ6~8割程度と少なめであること。また、実際約9割の家族・代理人が本人の最期を決めている事実もあり、早い段階からACPについて家族・代理人・医療者側と共有しておくことが重要であると説明していただけました。共有要素の一つである事前指示書(具体的な治療法に関する希望)について、日本では当たり前に行われている炎症反応に対する抗生剤投与治療も、アメリカでは人生の最期として捉えられており、また欧米の緩和ケア学会声明では、栄養状態改善のための積極的介入や自然死を妨げる無理な延命は虐待と捉えられているなど、日本との文化の違いを学ぶことができました。
 川西先生より、日本のACPが進みにくいのは、日本人は古来より万物に霊が宿り発する言葉にも霊が宿る「言霊」と信じられています。最期の時や死の話をすることで、言葉に死が宿り、自身にも急に思いがけない死が迫ってくるのではないかというところから、死の話に対し「縁起でもない」「気持ち悪い」等、口に出したがらないという要因があるのでは考えていますとの話がありました。また、ACPを行う際には、スピリチュアル(精神的な)ケアが大切であり、看取りや最期の話をすることで、不安と孤独感、うつ状態になられる方もいます。改善方法として、コミュニケーションと薬が必要であり、特に希望の形成としてコミュニケーションは重要であり、例として、癌の治癒しか見ていない患者様に対し、趣味や娯楽に目を向け考え方をリフレイミング(新たな枠組み)することで、免疫力が上がり、抗がん効果も期待できるようになります。また薬に関して、日本の精神科医師数は、アメリカの人口比に対して多いので、もっと相談して少しでもしんどさを助けてもらったほうが良いと思いますとの説明がありました。
 川西先生より、患者様に対しBSC(ベスト・サポーティブ・ケア)、DNAR(ドント・アテンプト・リサシテイション)、緩和ケアについて説明することがあるそうです。BSCだから積極的治療はしない、DNAR(蘇生しない)ので輸血しない、緩和ケアは看取りケアではないことを知ってほしいです。症状などを和らげる緩和的化学放射線療法や苦痛軽減のための輸血があり、緩和ケアも看取りではなく希望実現をしてもらいたいとの話がありました。ボランティア活動団体として、無償でターミナルケアを受けている方を対象に、その方が望む場所へと無料でお連れする願いのくるまという一般社団法人があることを紹介していただきました。ACPを行うことで、侵襲の少ない治療の選択や終末期QOL向上、ケアに対する家族の満足度の上昇にもつながります。実際、先生が家族と何度も話をしたうえで、点滴を行わずに老衰を迎えた際、ご家族より「ずっと悩んでいましたが、最善の選択で救われた気がします」と話されたこともあるそうで、ACPについて何度も話し合う大切でありますと説明していただけました。ACPの阻害要因として、医師側の要因としてトレーニング不足、保険点数がついていない、患者側の要因として不吉な事は話したくない(言霊)、医師側への期待(医師任せ)、ACPの重要性認識不足を挙げられました。
 今までの裁判事例より、個人の拒否権の強さや積極的・消極的安楽死について紹介していただきました。日本では積極的安楽死は、認められていませんが、海外の事情としてカナダのケベック州では22020年に1776人、オランダでは2022年に約9000人、スイスでは自殺ほう助(医師が勧めた薬を自分で服用等する)を認められており、日本からも助けを求めるケースもあるそうです。私も、同様のドキュメント番組を視聴したことがあり、日本との違いを改めて知ることができました。消極的安楽死(本人の意思を前提に回復の見込みのない患者に対し、延命のためだけの治療を中止して死に至るまでの苦痛を緩和する行為)も同様に日本では法的に認められていないが、欧米に加え、インド、タイ、韓国、台湾、シンガポール等海外で法整備されている国も多いことを示していただきました。川西先生より、国や宗教の文化の違いで生き方・逝き方にも違いがあります。ACPの議論をもっと深める事で、積極的・消極的安楽死、自殺ほう助の議論も深まるのではないかと考えていますとの説明がありました。
 最後に、ACPについて、実際約9割の家族・代理人が本人の最期を決めている事実もあるため、早くから何度も家族・代理人を決めて、何よりも価値観、人生観の共有を行ってほしいですとのお話がありました。
 川西先生、遅くまで大変貴重なご講義ありがとうございました。
ページ上部へ