9月の「医療と介護の未来塾」も、なるコミにて会場もしくは、Zoom形式のハイブリッド方式で開催いたしました。今月のテーマは、「骨粗鬆症について」で、講師は島本 幸子 先生(宇都宮病院非常勤医師 循環器内科専門医)(以下、島本先生)でした。今月参加者は、Zoom参加者:11名(最大)・なるコミ聴講:12名の合計23名でした。ご参加いただきました皆さま、有難うございました。
島本先生より、循環器内科学会での発表の中で骨粗鬆症と動脈硬化について、2つの疾患が関係していることを知り、今回の勉強会を通じて、高齢者に携わる方に知識を持っていただき、啓発になればと考えていますとのお話がありました。また、高齢者の方で身近に感じるのは、骨粗鬆症からの転倒・骨折・寝たきりだと感じます。最近ではスーパーや薬局でも骨密度を簡単に計測しやすくなっているのでまず自身の骨塩量を知ることが大切になってきます。患者様、ご利用者の方にも、「1回計測してみたら」、「腰曲がってきてない」等進めてもらいたいです。何もなくても2,3年ごとにお声がけしてもらえればと思います。実際、先生の働かれている病院でも待合の時間に、骨粗鬆症のビデオを配信することで、多くの患者様の啓発や検診にもつながっていますとの紹介がありました。
腰椎・大腿骨頸部の骨粗鬆症の年代別発症状況について、女性は40歳代から閉経後の女性ホルモンの減少により骨粗鬆症が始まります。そのため、婦人科では早発閉経の方には将来の骨粗鬆症の予防として積極的なホルモン補充療法を進められることもあるそうです。また高齢になるほど男性の約3~4倍の発症状況になっていますとの説明がありました。年齢と骨量からも、閉経期を境に著しく減少しており男性との差が明らかであることが理解できました。島本先生より、骨粗鬆症で最も問題となる微細な外力で生じる脆弱性骨折について説明がありました。微細な外力とは、立った高さからの転倒を基準とし、それ以下の外力で生じる骨折であり、椎体(背骨)、大腿骨近位部(足の付け根)、橈骨(手首)、上腕骨近医部(腕の付け根)に多く見られます。特に大腿骨近位部の骨折は、歩行能力が低下し、寝たきりになる患者さんが半数以上いますとのことでした。さらに、日本人椎体(背骨)骨折の個数と生命予後のデーターを示され、椎体(背骨)骨折の個数が多いほど生命予後が悪化し、大腿部近位部骨折がさらに予後を悪化させることも学ばせていただきました。島本先生より、平均寿命と健康寿命の差(2016年)について、男性の平均寿命は約81歳、健康寿命は72歳、女性は平均寿命が87歳、健康寿命が74歳と、ともに日常生活が制限された期間が約8~12年あります。日常生活が制限されることなく生活できる期間である健康寿命を延ばすためにも、骨粗鬆症の予防と治療は大切でありますとの話がありました。
各都道県別の骨粗鬆症検診率を示され、和歌山県は近畿圏内でも最も低くまた全国でワースト2位であることを示されました。島本先生より、骨粗鬆症は、自覚症状がないため自分の骨が脆くなっているかどうかは外見からは分かりません。背中や腰の骨などは気付かないうちに折れてしまっている場合もあります。骨粗鬆症検診率が低い地域ほど、大腿骨骨折を起こしやすく、介護が必要になる傾向にあることが分かっています。健康寿命を延ばすには骨塩量の測定が重要です。女性では50歳くらいから骨量が低下し始めるので、閉経後は原則1年に1回測定すると良いでしょう。男性は長期の寝たきりや、胃腸障害などがなければ、70代以降の測定が良いでしょうとご講義くださいました。
骨粗鬆症の予防についてご説明していただきました。予防は、「食事・運動・日光浴」の三原則であり、骨量が低下する以前から心がけてもらいたいです。食事面ではバランスの良い食生活を心掛け、カルシウムとカルシウムの吸収を助けるビタミンDを多く含む食品を取るようにしましょう。ビタミンDは紫外線に当たることで皮膚でも生成されます。日光浴の時間は夏なら木陰で30分、冬なら1時間程度で十分です。運動によって骨や筋肉が刺激され強くなるので、転倒防止につながるほか、ロコモやメタボリックシンドロームなどの予防効果も期待できます。このほか、過度の飲酒や喫煙は控えてもらいたいです。転倒の原因となる病気(膝や腰の痛み、白内障といった目の病気など)、めまいや眠気を起こす薬の服用には注意が必要で、行動面では特に夜間のトイレなどには気をつけてもらいたいとのことでした。
最後に、島本先生より、在宅で生活している高齢者に関わる機会の多いケアマネジャー等が病気の言葉だけでなく、一歩踏み込んだ知識を身に着けていくことでその人の病気への啓発や治療につながっていくことになるのでは感じていますとのご説明がありました。
島本先生、遅くまで貴重なご講義ありがとうございました。