3月のテーマは、「大切な呼吸のお話」でした。講師は、島本 幸子先生(宇都宮病院非常勤医師 循環器内科専門医)(以下、先生)になるコミにおいてご講義いただきました。
今月は、1部に在宅医療・介護連携推進センター事業報告会、2部に先生の講演会として土曜の午後より開催いたしました。普段より健康に注意し体操等に努力されている多くの地域住民の方に高い関心をもってもらうことができました。
参加者は、Zoom参加者:7名(最大)・なるコミ聴講:50名(内、地域住民25名):合計57名でした。ご参加された皆さま、有難うございました。
ご講義の前に先生より、呼吸器リハの重要性についてのお話がありました。先生曰く、「一般的に、運動器リハで手足を鍛えることで筋力が付くことは理解されているが、呼吸に関しては生きていることで呼吸が当たり前に行えるので、鍛えるという概念もない。また、脳や心臓、肺は鍛えることができない臓器であるが、肺を動かしている筋肉いわゆる呼吸筋は、自身の努力により無限大に鍛えることができることを知ってもらいたい」とのことでした。また、実際、先生は最近の新型コロナウイルス感染された方を診察するなかで、きれいな肺は多くあるが呼吸筋が弱いため、痰の排出や肺の拡張がうまく行えずに重症化する方やその後の回復が遅れたりする方もあるため、呼吸器リハは大切であるとの話がありました。
講義では、イラストを用いて①呼吸のしくみ、②呼吸筋について、③肺のしくみ、④痰のしくみ、について説明していただきました。
①呼吸とは口や鼻から取りこんだ空気を肺の奥にある無数の細かい風船(肺胞)の隅々まで空気を送ることである。また肺の表面積が大きいほど、肺に行く血管との接触面が多く一度の血液循環で沢山の空気が取り込める(ガス交換)良い状態の肺であり、表面積が狭くなる原因は喫煙であるためできれば控えてほしいとのことでした。
②呼吸筋には、首の頸部にある胸鎖乳突筋・肋間筋・横隔膜等様々な筋肉が関係しながら呼吸をしており、また吸う筋肉(吸息筋)と吐く筋肉(呼息筋)にも分かれていることを説明してくれました。先生曰く「人間の筋肉は、猫背のように曲がる(屈筋)ほうが優位なため、何も力を入れていないと楽な姿勢を取り始める。高齢になると、呼吸筋や胸郭とも縮む傾向にあるため、どんどん空気の入る量が少なくなってくる」との話がありました。
③肺のしくみについては、イラストでご教授いただきました。高齢になると、最大限空気を吐き出した後に肺や気管に残っている空気の量(残気量)も多いため、最大に吸い込む量(最大吸気量)が少なくなることを学べました。先生より、幼少期は、全速力で走ったりすることで「ハアー、ハアー」と息をするだけで呼吸筋が鍛えられていた。年齢を重ねるにつれ、下肢筋力も低下し通常の日常生活を送るだけではなかなか呼吸筋を鍛えるような激しい運動は行わない。そのため、最大限吸う・吐くという日々のトレーニングの努力が必要になってくると仰られました。実際の姿勢として、椅子に浅く腰を掛けて背筋伸ばして肩を張り胸郭を拡げる方法、横になり背中に丸くした何か(円柱)を挟み込むことで自然と胸郭が拡がる方法をご紹介され、その姿勢で息を最大に吸って・吐き切ること、また吐き方もロウソクの火を消さない程度のゆっくりとした吐き切る呼吸が大切であると話されました。さらに、呼吸トレーニングは、自身の体重を支えないので腰痛・膝痛の方でも行えるとのことでした。先生は、通勤時や台所等場所を選ばずに時間の空き時間を利用して行っているそうです。
④痰のしくみについては、イラストを用いてわかりやすくご説明いただきました。先生より、新型コロナやインフル等の気道感染により痰が多くなり、呼吸筋が弱いと上手く痰を排出できない方も多い。また、誤嚥した場合でも、しっかりと排出できれば肺炎になるリスクも軽減できるので、日頃から最大限吸う量と吐く量を訓練しておくことが大切であると話されました。
なるコミ聴講の方より、歯科受診の際の呼吸方法、誤嚥の危険性のある訪問患者様への呼吸リハの練習方法、コルセットや骨粗鬆症の方への呼吸筋ストレッチのアドバイス等、皆様関心高くご質問されておりました。
最後に、先生より、ウイルス感染や誤嚥性肺炎等でご高齢や心肺機能低下の方で、病状的には良くなってはいるにもかかわらず、自宅で衰弱し入院される方が多い。治療にも限界があるため、呼吸筋ストレッチを用いて治療から予防の考え方で日々のセルフトレーニング・セルフケアを心掛けてほしい。また、周囲の人にも広めて欲しいと仰られました。
講義終了後に、YouTubeでも流れている簡単な呼吸筋ストレッチ体操動画(発行:独立行政法人 環境再生保全機構)を紹介して頂きました。コラムをお読みいただいた方で関心のある方はDVDを差し上げますので第5推進センター・土橋までご連絡ください。